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晴れ時々走れ

マラソン、トライアスロン、人生について

キングよ、頑張れ

水泳

59秒63。

日本水泳連盟が課したリオデジャネイロオリンピックの100m平泳ぎの派遣標準記録はあまりに過酷だった。

予選、準決勝と好調だった北島はラスト5mで沈んだ。最後に北島をかわした小関も100分の3秒及ばなかった。ロンドンオリンピック出場の立石も届かなかった。

 

まさかの代表ゼロ。

 

北島のやってしまったという表情。優勝した小関の憮然とした表情。会場全体が異様な空気に包まれた。しーんと静まりかえって、誰もが言葉を失っていた。どう声をかけて良いか分からず黙っている。NHKのテレビ中継のゲストに呼ばれていた寺川綾さんはショックでコメントがうわずっていた。

 

2人の選手が1分を切る見事なパフォーマンスが繰り広げたのにみなが戸惑っている。時間が止まってしまったかのようだ。はじめに小関選手の場内インタビューが流れる。「情けない...」。せっかく北島に勝ったのに標準タイムを突破できなかった不甲斐なさ、苛立ちが溢れている。続いて、北島選手のインタビュー。「言葉にならない...」。最後に力尽きたのは本人が一番分かっていたと思う。この4年間の重みが絞り出された言葉から感じられた。

 

そこに、誰も勝者がいない。

他の競技ではありえないシーンだ。

例えば、マラソンではいつもオリンピック選考がドラマになるが、今回の競泳日本選手権のシーンを見せつけられると、言葉は悪いが、マラソンは標準記録を突破せずとも五輪に出られる甘ったるい戦いにしか見えない。もちろん自分ごときが評価するなんておこがましい限りですが、それだけ、競泳のシビアさが他の競技と比べて際立っているということです。

 

この派遣標準記録、59秒63がいったいどのくらい厳しいタイムなのか?

100ブレで1分を切る。これは競泳の歴史では長いこと達成不可能とされた記録だった。北島康介が2004年のアテネオリンピックで金メダルを獲得して「超気持ちイイ」と発言したときのタイムがようやく1分00秒08。北島は2008年の北京オリンピックで58秒91のタイムで当時の世界新記録を出し2連覇を果たしたが、59秒63は北京の5位に相当する。2012年のロンドンオリンピックでも同じく5位に相当するタイムなのだ。

 

もちろん、北島の活躍以降、世界の平泳ぎは一気に高速化して、最近は1分を切る選手が続出している。とは言っても、前回五輪で5位になれる記録なのだ。

その記録を一発勝負でしかも決勝で突破しなくてはならない。しかも、ライバルたちに勝って2位以内に入らないといけない。

競泳出身の人なら分かると思うが、競泳はとてもデリケートな競技だ。ちょっとタイミングが狂えばすぐに1秒くらい変わる。コンディションが優れず、水に浮かないときは、どうあがいてもパフォーマンスを発揮することができない。また、レースで一回、限界まで筋肉に疲労がたまるとなかなか抜けない。

つまり、予選、準決勝、決勝とタイムを上げていくことは、よっぽど調子が良いか、よっぽど余裕がないと至難なのだ。テレビ中継では、タイムが上回って当然のような言い方をするが、そんな単純なスポーツではない。

 

平泳ぎは日本のお家芸。4種目の中で最も繊細な技術が必要なため、フリーやバタフライといったパワー系の種目に比べて日本人が有利で世界をリードしてきた。

そして、今大会はオリンピックイヤーに見事、復活したキング北島康介。大会二連覇の小関也朱篤、ロンドンオリンピック代表で200mで銅メダルを獲得した立石諒など新旧タレントがそろった。

その日本から100m平泳ぎの代表がいない。もし、小関と北島が出場していれば二人とも決勝に進出してファイナリストになる可能性があるのに出場できない。

 

あまりに過酷。残酷すぎる。

しかし、ここには日本水泳連盟の毅然とした方針がある。他の競技のようにオリンピックに出場することを目標としていない。オリンピックで入賞して、メダルを掴むことをゴールにしているのだ。そのためには、過酷とも思える標準記録を設定して、選手やコーチを追い込む必要がある。事実、この体制だったからこそ、ロンドンオリンピックでは銀メダル3、銅メダル8と日本競泳は他の競技を圧倒する成績を残すことができたのだ。

そして、今回も、この異常ともいえる標準記録を突破した選手たちだからこそ、泳力、精神力ともさらに逞しく成長を遂げ世界で戦えるのだ。一流の選手のなかで本当に強い選手だけがふるいにかけられた。

コンマ1秒以内で突破した選手たちが何人かいた。彼ら、彼女たちは最後まで諦めずに力を発揮する成功体験を掴んだ。そして、同時に、突破できなかった選手たちの思いを痛いほど感じているでしょう。そうして背負ったものによって、さらにパフォーマンスをあげてくると思います。もちろん、スポーツに不確実性はつきものですから、みんなが最高に状態で大会には望めませんが、きっと多くの選手たちが素晴らしい成績を本番でたたき出すことを確信しています。

 

しかし、それでも、感情として割り切れない思いがあって、このブログを書いています。2大会連続の金メダル、そしてメドレーリレーでアメリカに次ぐ銀メダルという快挙を成し遂げたにも関わらず、33歳になってもチャレンジを続けてきた北島康介選手には、ものすごい勇気をもらってきました。

最近、悔しく思う気持ちが薄れていましたが、まるで自分のことのように悔しい。

もう一度、あの美しくシャープな泳ぎを世界の舞台で見せて欲しい。そして、天性の無邪気さあふれる笑顔とインタビューを聞きたい。

 

最近、水泳はご無沙汰気味ですが、自分のルーツはやはりスイマーなのだと思います。

日本選手権観戦後、あまりに悔しくて気持ちが昂るのでプールに行って泳いできました。自分には水泳センスがないうえ、体力の衰えで情けない泳ぎしかできません。でも、北島選手らの闘いを見せつけられて、泳ぐこと自体の歓びと果敢に挑戦する気持ちを取り戻しました。

頑張れ、キング!

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