晴れ時々走れ

マラソン、トライアスロン、人生について

倉本聰さんの「屋根」

富良野GROUPの「屋根」を観劇しました。

これまで「明日、悲別で」と「マロース」を観ましたが、今回の「屋根」も心を揺さぶられる作品でした。倉本聰さんの作品に共通する、豊かさとは何か?幸せとは何か?ということがテーマになっています。

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(写真は公式HPより)

 

北海道の歴史は開拓と切り離すことはできません。

物語は大正時代から始まります。富良野を舞台に寡黙で土地を愛する公平と秋田出身で明るく歌が好きで人を愛するしのが、森を切り拓いて建てた茅葺屋根の家を舞台に昭和、平成と時代をまたいで生きていく様子を描いていきます。

 

たった2時間の演劇で、様々な物語が交錯します。人権を蹂躙して搾取する格差や貧困、若者の命を紙切れのごとく使い捨てる戦争、モノを消費することで続く経済成長、バブルの崩壊や産業構造の転換で故郷を捨てる人々など。そのなかでも心に響いたことを2つ書きます。

 

まずは、土とともに生きることの尊さについて。

公平としのの夫婦の暮らしを見ていて「北の国から」で大滝秀治さんが演じる清吉おじさんを思い出しました。

純が富良野での五郎との生活が嫌になり東京に帰るとき、送ってくれた清吉おじさんと駅の喫茶店に入る。普段は優しい清吉おじさんが厳しい表情になって、ともに開拓して入植した仲間が離農したときの思い出を語る。

「お前らいいか、負けて逃げるんだぞ。二十年いっしょに働き、お前らの苦しみ、悲しみ、悔しさを知っている。だから、他人にはとやかく言わせない。偉そうな批判はさせん。しかし、わしには言う権利がある。お前ら負けて逃げるんじゃ」

長いセリフを朴訥と語り、そして、中島みゆきさんの「ホームにて」が流れる。

普段、泣かないのですが、このシーンでは不覚にも涙が出ました。何だか自分の生き様があまりにも浮ついたものに感じてしまったのです。

 

「屋根」でも、そのときと同じ感情を思いおこしました。土地を切り開いて、耕して、恵みに感謝して、実直に暮らすことの尊さを見失う。豊かさを当たり前のように享受しているが、それが何によって成り立っているのかを忘れてしまう。老いぼれた公平としのが息子の借金のために命がけで切り拓いた土地を手放すとき、この土地は元々誰のものでもないと静かに去っていく様子に涙が出た。そして、誰が悪いわけでもないのだから恨んではいけないと。

 

さらに、心に重く響いたのが、公平としのの近くに住む(といっても、開拓地なのでかなり離れていると思いますが)荒木さんの幼い娘、おりんが人買いによって満州に連れて行かれるシーンです。わずかな金で売られた、おりんは女郎屋と思わしき場所で、しのにもらったお手玉を投げています。その様子がほんの一瞬だけ浮かび上がります。

そして、荒木さんはバブル期に土地が信じられない金額で売れて成金になります。よぼよぼになった荒木さんは呆けた頭でおりんを思い出し、「生きているか。今だったら何でも好きなものを買ってやるぞお」と声を震わせる。わずかな金で娘を売り、わけのわからない大金がやってきても豪邸を建てることくらいしか使い途がない。このシーンは本当に辛かった。満州の歴史を考えると、おりんの歩んだ道は辛すぎる。

貧しいものは搾取され続けます。貧しい家庭の子どもたちが戦争へ行き、女郎屋に売られていきます。酷い国だと思います。現代の貧困にも思いを馳せます。

 

登場人物たちは精一杯、幸せになろうと思って、不幸せになってしまう。豊かになっても豊かになっても、満たされることはなく逆に大切なものを失っていく。土地も金もエネルギーも浪費しないと成り立たない社会。人間の愚かさに胸を締め付けられます。

 

後で気づいたのですが、この劇の初演は2001年だったのですね。それから15年。戦争の愚かさ、広がる格差、持続可能な未来に対して、より強いメッセージを投げかけているのではないかと感じました。重たいテーマではありますが、倉本作品ならではのユーモアやほのぼのとした情景がそこかしこにあり、全体としては、人間や土地への讃歌を感じさせられます。「悲別」でも見た腰の曲がったおばあちゃんが登場するなど、手塚治虫作品のスターシステムのようで面白かったです。

 

5年間暮らした北の大地で、久しぶりに土や草、木々の匂いを嗅ぎたくなりました。北海道では都市で生活していても大自然の四季や大地に根差した暮らしが感じられます。そして、雪灯りの富良野演劇工房にも再び訪れたいものです。

 

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