晴れ時々走れ

マラソン、トライアスロン、人生について

京都マラソン2018③妄想レースのススメ

西京極陸上競技場は、気温0度、底冷えの朝。

足元から冷気がしみ込み、吐く息がほんのりと白い。放射冷却の影響からか気温が下がっている。そうであれば、日中は晴れそうである。薄い布切れのようなマラソンシューズのつま先は縮こまるほど寒いが、上半身はダウンを着ているから暖かい。京都マラソンは古着リサイクル・リユースの取り組みを行っているので、スタート直前まで暖かく過ごすことができるのだ。今回は古くなったダウンを寄贈することにした。整列位置を回収場所に近い左端だったので、スタート1分前まで凍えることもなく快適だった。

 

別大マラソンから2週間。筋肉の疲れは癒えたが調子は上がらない。この間の練習は、常に内蔵がおもだるい感じで、ペース走をしても1kmあたり10秒くらい遅くい。ベスト更新は難しそうなので、サブエガを一つの目標とする。誰がつけたか知らないが、江頭2:50に引っ掛けてフルマラソンで2時間50分を切ることを、SUB・江頭、サブエガと名付けたのだ。

 

和服姿がトレードマークの市長がスターターを務める。京都らしく、朝原宣治さんや奥野史子さん夫妻などが並んでいる。いつも思うけれど、サポーターの皆さんは一つ高い壇上ではなく、平場で選手たちを送り出してくれたら良いのにと思う。スタート直後は、混雑で転ぶ危険があるので選手は目線を上に上げず、お顔を拝見できない。でも、平場にいれば声をかけたり、ハイタッチしたりできる。ただ、これは一人の選手としての一方的、かつ独善的な希望であり、ハイタッチされる側からすれば、数千人の誰だか知らない人たちと、トイレに行った後かもしれない手に触り続けるのは、体力的にも心理的にも拷問に近いものがある。

 

朝9時にスタートの号砲が響き渡る。トラックから、でこぼこした素材の石が並ぶ取り付け道路に入る。足の裏にズンズンと響く。高校駅伝でいつも出てくる場所だと思うとテンションが上がる。

 

さて、フルマラソンの個人的な楽しみ方を一つ教えたいと思う。それは自分にとって快適なペースの集団を見つけること。もし、見つけることができれば、彼ら彼女たちが一緒に旅をしてくれて、レースが楽しくて楽になる。ドラクエで自分好みのパーティを作るような感じだ。

 

今回は10kmの広沢池を過ぎた後くらいで、良い集団を見つけた。実業団で活躍していた早狩実紀さんを中心とした集団だ。早狩さんは今回、ペア駅伝に参加している。重心が高く、かっこよいフォームで跳ねるように走っていて惚れ惚れとする。ペースメイクも見事でブレない。

 

良い選手の周りには、自然と多くの選手が集まる。すでに5人くらいの集団ができていた。ここでおススメなのが選手たちにそれぞれニックネームをつけること。そして、勝手にキャラ設定を妄想すること。

 

この辺の感覚は大好きな作家、万城目学さんの雰囲気を参考にしています。京都を舞台にした小説「鴨川ホルモー」や、エッセー集「ザ・万字固め」に登場する大阪市営地下鉄を戦隊ヒーローになぞらえた作品などです。

 

鴨川ホルモー (角川文庫)

鴨川ホルモー (角川文庫)

 

 

ザ・万字固め

ザ・万字固め

 

 

さて、今回、一緒に走るメンバーは良いメンバーに恵まれた。リーダーは元実業団の女性ランナー「ミノリさん」、そして、続くのが男性陣。黒い「サンバイザー」、白いユニフォームの「大学生」、黄色いシャツの「プレモル」、青いタンクトップの「コジロウ」。そして、赤が入ったユニフォームの自分。

京都を舞台に、玄武(黒)、白虎(白)、青龍(青)、朱雀(赤)がそろうなんてできすぎやないか!!この偶然に我ながら感激。まさに鴨川ホルモー

 

途中、集団の中で前後することはあるものの、概ね「ミノリさん」を中心に集団は保たれる。「ミノリさん」はかつて都道府県対抗女子駅伝の強豪、兵庫県の常連メンバーだ。陸上部ではない自分でもよく名前を知っているくらいの有名な選手だ。男どもを率いて、ジャンヌ・ダルクのように颯爽と走っていく。

「大学生」が沿道から女性に声をかけられる。後輩からの応援だろうか?若いって羨ましい。頑張れ、センパイ。

「サンバイザー」は一度先行するが遅れ始める。ただ、しっかり集団に戻ってくるのを確認してホッとする。もはやライバルではなく仲間の感覚だ。

「コジロウ」は青いタンクトップが日向小次郎くんみたいだ。個人的な感想だが、Tシャツではなく、ランシャツでもない、タンクトップで肩をむき出しにしている選手は力走派が多い気がする。

また「プレモル」のシャツを見るたびに、なぜ、このシャツを着ているのか考えてみる。サントリーの関係者だろうか?もしくは個人的にスポンサー契約をしているのだろうか?いずれにせよビール会社にとっては抜群の宣伝効果だと思う。おかげでこちらは、走りながらビールを飲みたくてしょうがない。こうしたマーケティングを発案しているオフィスビルの一室を思い浮かべてみる。こんな風に妄想はどこまでも膨らんでいく。

 

北山通りに入ると「ミノリさん」がややペースを上げる。しかし、それぞれの選手はしっかりとついていく。オーケー、集団は崩れない。いい感じだ。走り方の特徴から攻撃力、粘り強さから防御力、汗や呼吸からHPをはじき出す。

「ミノリさん」が次々と集団を吸収していき、気が付けば20人くらいにまで膨らむ。植物園に入ると集団は縦に伸びていき、今度は自分が後方に遅れ始めるが食らいつく。

 

15kmにわたり1時間以上も続いた楽しい時間は終わりが訪れる。

ペア駅伝の1区は植物園のなかに中継ゾーンがある。「ミノリさん」がコースから外れて消えていく。ありがとうと呟く。

強力な求心力を発揮していた「ミノリさん」が消えると、あれだけ統率されていた集団はバラバラに崩れていく。それは、エントロピーの法則のように。

30kmの疲労が追い打ちをかける。脚が残っていない選手たちは一人、また一人と遅れていく。河川敷から御所に続く丸太町通りに上がり後ろを振り返ると、一緒に走ってきたメンバーたちの姿はなかった。

こうして、再び一人旅が始まるのだった。

 

という風に、それぞれのキャラ設定をして、妄想とともに走るマラソンはなかなかに楽しいものです。ロールプレイングゲームや小説の主人公になったような感覚になるわけです。マラソンには選手一人一人にドラマがあり、出会いがあり、別れがあります。一期一会のドラマを自分好みに味付けして演出してみましょう。

 

おかげさまで、サブエガも達成できました。ご一緒した選手のみなさん、ありがとうございました!

 

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